9種類の必須アミノ酸は、身体の様々な機能を正常に保ってくれています。
体内にて合成ができないので、食事から経口摂取するしかないこれら必須アミノ酸には、いったいどのような効果があるのでしょうか?欠乏症や摂りすぎの症状は?
今回は、9種類の必須アミノ酸の各効果、欠乏症や過剰症について、各必須アミノ酸を多く含む食品についてご紹介していきます。
この記事の目次
必須アミノ酸とは?
私たちの身体を構成しているアミノ酸には、合計20種類あり、その中で、カラダで合成ができず、毎日の食事から摂取する必要があるものを「必須アミノ酸」といいます。必須アミノ酸は、イソロイシン、ロイシン、リジン(リシン)、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン(スレオニン)、トリプトファン、バリン、ヒスチジンの9種類になります。
残りの11種類は「非必須アミノ酸」と分類され、体内で合成することができますが、生命活動を健全に維持していくために、食物からも摂取したいアミノ酸です。
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各必須アミノ酸の効果と欠乏症・過剰症一覧
【1】 イソロイシン
<効果>
(1)成長促進効果
イソロイシンは、甲状腺ホルモン(全身の細胞に作用して代謝を促進する働きをもつホルモン)の分泌を促進させ、筋肉や身体の成長を促進します。代謝が促進されると、身長の伸びや筋肉形成がより促されます。
(2)筋肉強化や肝機能の向上効果
イソロイシンは、ロイシンやバリンと共に、BCAA(分岐鎖アミノ酸)と言われ、運動している時のスタミナや筋肉量の維持に効果的。筋肉痛や疲労を緩和することにも効果を発揮します。イソロイシンは、特に筋肉材料であるタンパク質を作る役割を担っており、スポーツをする方は特に積極的に摂取しておきたいアミノ酸です。
(3)神経機能向上効果
イソロイシンは神経の働きを助け、脳からの信号をスピーディに末端組織まで伝える働きがあります。そのため、判断力や反射神経に影響があるとされています。他にも集中力を高めるなどの効果もあります。
(4)疲労回復効果
イソロイシンは、グルコースをグリコーゲンとして貯蔵し、必要な時に糖に変換してエネルギーとして使用させます。身体の運動はもちろん、脳の働きにも効果があります。また、脳内にセロトニンという物質が増加すると疲労を感じますが、イソロイシンはセロトニンの生成を抑制し、疲労を軽減し回復させる効果があります。
(5)肝機能の向上効果
イソロイシンは、肝機能を高める効果があります。肝硬変を患っている方は、BCAAや血中のアルブミンの量が不足するなど、アミノ酸のバランスが崩れています。このため、BCAAやアルブミン製剤などを補うと、肝臓でのタンパク質合成が正常に戻り、血中のアルブミン量も正常に戻ります。
<イソロイシンの欠乏症・過剰症>
欠乏症 |
過剰症 |
イソロイシンの不足は、筋肉を動かすエネルギーの不足につながります。筋肉のエネルギーが不足すると、それを補うために筋肉が分解・消費されてしまうため、筋肉量が減少してしまいます。 他にも、髪毛タンパク質の80%がイソロイシンなどアミノ酸で構成されていることなど、イソロイシンは、髪や肌の健康に重要な役割を持っています。イソロイシン不足は、髪の潤い低下や健康を害し、皮膚の炎症も引き起こされるとされています。 |
BCAAは、イソロイシン、ロイシン、バリンの3種類のバランスが大切です。いずれかの摂取が多くなると、そのバランスが崩れ、免疫力の低下、体重の減少などを起こす可能性があります。
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【2】 ロイシン
<効果>
(1)筋肉の成長・修復効果
BCAA(分岐鎖アミノ酸)の一種で、その中でも特にロイシンは、作られた筋肉の健康維持のために働いています。筋肉増強と筋肉が脂肪に変化するのを抑えるといった効果もあります。
さらに、インスリン分泌を促して、ブドウ糖をエネルギーとして筋肉細胞に取り込む作用を助けてくれます。また、持久力や瞬発力を高め、筋肉を成長させたり修復したりします。
(2)肝機能の向上効果
ロイシンには、肝機能の向上と身体の疲労回復効果があります。
肝臓の役割には、代謝活動をはじめ、アルコールや有害物質の分解、グリコーゲン代謝と蓄積など、多岐にわたっており、毎日フル活動です。肝臓が疲労して肝機能が低下してしまうと、代謝も鈍って全身に問題が出てきてしまいます。ロイシンは、肝臓疲労を軽減してくれ、正常な活動ができるように働きかけています。
(3)ストレス緩和効果
エンドルフィンとは、鎮痛作用や気分の高揚・幸福感などが得られる脳内の情報伝達物質です。ロイシンは、このエンドルフィンと同様の効果が期待でき、ストレス緩和にも大きな役割があると言われています。
(4)育毛効果
タンパク質の形成に深く関わるロイシンは、育毛の効果が期待でき、髪の健康状態も良好に導きます。
<ロイシンの欠乏症・過剰症>
欠乏症 |
過剰症 |
ロイシンが不足すると、肝機能低下を招いてしまいます。肝機能が低下するとグリコーゲンが合成されず、インスリン分泌も減少してしまいます。この結果、血糖値が上がり、腎機能障害や糖尿病を引き起こしてしまう可能性があります。 また、ロイシンは、BCAAの中で、特に筋肉の成長に深く関わっているため、不足すると筋力低下を起こします。また疲労回復も遅くなり、疲れが溜まってしまいます。 |
BCAAは、イソロイシン、ロイシン、バリンの3種類のバランスが大切です。いずれかの摂取が多くなると、そのバランスが崩れ、免疫力の低下、体重の減少などを起こす可能性があります。
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【3】 リジン(リジン)
<効果>
(1)疲労回復、集中力を高める効果
リジンは、タンパク質吸収を促進し、糖をエネルギーにスムースに変換させます。脳のエネルギーが効率よく変換されることで、疲労回復や集中力を高めるといった効果が期待できます。また、カルシウムの吸収を促進する働きもあります。
(2)血圧を下げる効果
リジンには、血圧を下げてくれる効果があります。そのため、高血圧が原因となる脳卒中などの疾患に効果的です。
(3)発毛・育毛効果
髪や肌の元となるケラチンというたんぱく質はリジンによって作られます。リジンは、様々な原因で起こる薄毛や抜け毛の治療にも重要な役割を持っていて、摂取することで発毛効果や育毛効果が期待できます。
(4)ダイエット効果
カルニチンは、脂肪を燃焼させ、エネルギーに変換するときに必要な物質。リジンは、カルニチンを生成する時の材料となるため、脂肪燃焼の役割がありダイエット効果につながります。
<リジンの欠乏症・過剰症>
欠乏症 |
過剰症 |
リジン不足は、疲労の蓄積、肝機能の衰え、血中の飽和脂肪酸やコレステロールの増加などが起こります。また、目の充血、めまい、吐き気、貧血といった症状も引き起こします |
腎機能に障害を引き起こすこともあります。
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【4】 メチオニン
<効果>
(1)肝機能の向上
メチオニンは、肝臓にたまった老廃物や毒素を排出し、代謝を促してくれます。
脂肪分の多い食事やアルコール分などの暴飲暴食が原因で、肝細胞に30%以上の中性脂肪がついてしまうことを「脂肪肝」といいますが、メチオニンが持つ脂肪を乳化させる働きと、肝臓の代謝促進との相乗効果で、脂肪肝の防止につながります。
(2)アレルギー症状の改善効果
メチオニンは、ヒスタミン(アレルギーを引き起こす元になる物質)の働きを抑える効果があります。メチオニンを摂取すると、血液中のヒスタミンが減るため、アレルギー症状を改善することができます。
(3)うつ症状の改善効果
メチオニンは、セロトニンや、ノルアドレナリン、ドーパミンなど神経伝達物質の材料となります。これらの神経伝達物質は、うつ病を改善したり、認知症予防や記憶力の向上といった脳活性の効果が期待されています。
(4)老化防止効果
メチオニンは、抗酸化ミネラルであるセレンを運搬する役割を持っていて、体内の抗酸化作用を高めてくれます。また、加齢による体力低下の原因の一つに、クレアチン(身体能力や運動の分野で活躍する物質)合成の減少があります。メチオニンは、クレアチンを合成するための材料となっています。このため、メチオニンは、クレオチン合成を増やし、老化防止にも役立ちます。
(5)デトックス効果
メチオニンは、肝機能を高める効果があります。さらに、セレンと共に働いて、水銀や鉛、カドミウムといった有害重金属を排泄します。他にも、脳神経や中枢神経に有害重金属が蓄積することも防いでくれます。
<メチオニンの欠乏症・過剰症>
欠乏症 |
過剰症 |
メチオニンが不足することで、肝臓の働きが悪くなります。そして、利尿作用が低下し、むくみの原因になります。また、老廃物や有害物質が排泄されず、身体に様々な悪影響が出ます。 |
過剰摂取した場合は、嘔吐、めまい、低血圧、悪心などの危険性があります。
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【5】 フェニルアラニン
<効果>
(1)脳の機能向上効果
フェニルアラニンは、体内でノルアドレナリンとドーパミンに変換され、神経伝達物質として作用します。無気力感や気分の落ち込みを防いで、やる気を起こさせる作用があるので、うつ病の症状に改善効果があるとされています。また、記憶力や学習能力、注意力を向上させる効果も期待されています。
(2)鎮痛効果
フェニルアラニンは、脳内でエンドルフィンを生み出し、正常なレベルまで活性させて様々な痛みを抑えてくれます。片頭痛や神経痛、腰痛やリウマチ、外傷、骨関節炎など、痛みによく効きます。また、フェニルアラニンは、習慣性や毒性もなく、長期間使用しても効果が薄れることがありません。繰り返し使用によって、より効果をもたらせてくれます。
<フェニルアラニンの欠乏症・過剰症>
欠乏症 |
過剰症 |
フェニルアラニンが不足すると、ノルアドレナリンやドーパミン合成が不足してしまう可能性があります。そのため、意欲の低下や精神の不安定、記憶力や判断力の低下、学習効果の低下などが起こる可能性があります。さらに症状が進んでしまうと、うつ病などの精神疾患につながる恐れがあります |
フェニルアラニンを過剰摂取しても、危険度は低いとされていますが、血圧を上昇させる作用により、高血圧や心臓病などの疾患にかかる恐れがあります
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【6】 トレオニン(スレオニン)
<効果>
(1)成長促進効果
トレオニンは、新陳代謝を促進させる効果があるため、新しい細胞を作り出し、身体の様々な機能が正常に発達するよう促します。
(2)肝臓肝の予防
トレオニンは、代謝を促進する効果があり、肝臓の脂肪が蓄積され脂肪肝になるのを防いでくれます。さらに、脂肪肝への進行を防ぎ、肝硬変や動脈硬化などのリスク回避につながります。
(3)美肌効果
トレオニンを含んだアミノ酸は、肌の潤いを保つ天然の保湿成分(NMF)の40%ほどを構成しています。肌荒れを起こしやすい人は、角質層のアミノ酸が不足していると言われます。トレオニンは、体内でコラーゲン生成をする材料となってくれ、ハリや潤いを保つ効果もあるので、トレオニンを積極的に摂取することによって、美肌効果が期待できるようになります。
<トレオニンの欠乏症・過剰症>
欠乏症 |
過剰症 |
トレオニンが不足すると、成長の遅れや食欲不振、貧血などが起こります。食欲不振から、体重が減少に向かい、コラーゲン合成も減少するため、肌荒れの原因になってしまいます |
消化機能の低下や頭痛を引き起こしてしまうと言われています
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【7】 トリプトファン
<効果>
(1)不眠症の改善効果
トリプトファンは、睡眠効果や精神安定効果のあるセロトニンの材料になります。さらにセロトニンは、メラトニンに変換され、体内時計の調整や睡眠サイクルを整えてくれます。トリプトファンは天然の催眠効果もあるとして、不眠症の患者さんに重宝されている成文です。
眠れない時は温かい牛乳が良いとも言われますが、これは牛乳に含まれるトリプトファンの効用です。
(2)アンチエイジング効果
メラトニンは“若返りの薬”とも呼ばれる物質です。加齢とともに体内での分泌量が減少していってしまいます。しかし、トリプトファンを摂取しセロトニン量が増すと、メラトニンが増加するので、老化防止に効果があります。さらに、トリプトファンは体内で発生した活性酸素を除去する働きもあり、アンチエイジング効果にもつながります。
(3)集中力、記憶力の向上効果
トリプトファンは、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を作り出すアミノ酸の一つです。ドーパミンやノルアドレナリンの効果は、気分を高揚させ、やる気を生み出し、不眠症やうつ病改善といった効果があります。また、脳や行動障害の治療にも役立つことが分かってきています。
<トリプトファンの欠乏症・過剰症>
欠乏症 |
過剰症 |
トリプトファンの不足は、精神安定や鎮痛作用のあるセロトニンの分泌を抑えてしまします。セロトニンの不足によって、うつ病、不安症、恐怖症などの精神疾患や、不眠症や多動などを引き起こしてしまいます |
逆に過剰症としては、肝硬変やセロトニンの過剰によって脳機能が低下するなどの危険があります
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【8】 バリン
<効果>
(1)筋肉の修復効果
バリンは、イソロイシン、ロイシンと同じくBCAA(分岐鎖アミノ酸)の一種で、筋肉のタンパク質を構成し、筋肉内のエネルギー源となります。激しい運動などを行った後、傷ついた筋肉のケアをしてくれます。
(2)美肌効果
バリンを含む5種類のアミノ酸は、エラスチンの80~90%を構成しています。エラスチンは、肌を内側から支え、ハリを保ち、弾力を与えるなどの効果があり、バリンは美肌づくりに重要な役割を持っています。
(3)アンモニアの代謝促進
通常、タンパク質の分解によって発生するアンモニアは、肝臓で無毒化され尿として排出されます。しかし、うまく排出されず体内に溜まってしまうと、疲労や老化、免疫力低下などの原因になってしまいます。バリンを含むBCAAは、アンモニアを無毒化するグルタミン酸を作り出し、アンモニアの代謝促進をする効果につながります。
<バリンの欠乏症・過剰症>
欠乏症 |
過剰症 |
バリンは、血液中の窒素バランスを保つ役割があります。窒素バランスというのは、体内のタンパク質が正しい量に調整されているかどうかを表すバランスのことです。そのため、体内でバリンが不足すと、食欲が低下し、栄養不良を引き起こす可能性があります |
BCAAは、イソロイシン、ロイシン、バリンの3種類のバランスが大切です。いずれかの摂取が多くなると、そのバランスが崩れ、免疫力の低下、体重の減少などを起こす可能性があります
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【9】 ヒスチジン
<効果>
(1)成長促進効果
ヒスチジンは、30年以上前まで非必須アミノ酸の“準必須アミノ酸”(非必須アミノ酸の中で、体内合成量が不十分なため、必須アミノ酸のような扱いとされていたもの)に位置付けられていました。大人は体内で合成できますが、子どもは合成できず、急激に発達する時期の乳幼児には欠かせない成分でもあることから、1985年から必須アミノ酸として加わることになりました。
肉、魚、乳製品などの食品に多く含まれます。
(2)慢性関節炎の改善
ヒスチジンは、体内で交感神経を刺激するヒスタミンに変換され、外傷などの刺激で、血管を拡張する作用があります。血管拡張によって、慢性の関節炎の痛みを和らげる効果があります。
(3)ダイエット効果
ヒスチジンは、食欲を抑制する効果があります。また、ヒスチジンから変換されるヒスタミンには、脂肪細胞における交感神経を刺激することで、脂肪燃焼の効果があります。この2つの効果から、ダイエット効果が期待できます。
<ヒスチジンの欠乏症・過剰症>
欠乏症 |
過剰症 |
ヒスチジンが不足すると、成長不良や神経機能の低下が起こります。特に子供の場合は、体内で合成することができないために発育が遅れてしまいます。大人の場合は、皮膚疾患や肥満などを起こす可能性があります。 |
ヒスチジンが過剰になってしまうと、血中にヒスタミンが増加し、アレルギー症状が出やすくなります
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各必須アミノ酸を多く含む食品リスト
必須アミノ酸名 |
食品 |
イソロイシン |
鶏肉、鮭、牛乳、プロセスチーズ |
ロイシン |
レバー、アジ、鮭、乳製品、大豆製品 |
リジン(リジン) |
牛乳、チーズ、鶏肉 |
メチオニン |
鶏肉、牛肉、羊肉、マグロ、カツオ、牛乳、チーズ、納豆、豆腐、ナッツ類 |
フェニルアラニン |
大豆製品、卵、チーズ、脱脂粉乳、アーモンド、落花生、南瓜、じゃがいも、胡麻、肉類、魚介類 |
トレオニン(スレオニン) |
鶏肉、七面鳥、さつまいも、栗、脱脂粉乳、ゼラチン |
トリプトファン |
乳製品、大豆製品、ナッツ類 |
バリン |
レバー、仔牛肉、脱脂粉乳、プロセスチーズ、落花生 |
ヒスチジン |
カツオ、マグロ、仔牛肉、鶏肉、ハム、チェダーチーズ |
必須アミノ酸の効果、欠乏症、多く含む食品まとめ
9種の必須アミノ酸の各役割には、筋肉や身体の成長を促進させる効果だけでなく、肝臓などをはじめとする臓器から、髪や肌に至るまで、私たちのカラダを構成する全てのタンパク質に様々な影響を及ぼすことが分かってきています。
さらに、うつなど精神疾患に関わる影響も大きく、肉体的にも精神的にも、必須アミノ酸の働きなくしては良好な状態を維持できなくなると言えそうです。
食の欧米化が世界的に進んで、肉や乳製品中心のタンパク食を食べる生活が当たり前になってきている中で、さらに極端なダイエットのため、今や脂肪分やタンパク質を取らない思考へ傾いていることも大きな問題となっています。
アミノ酸と聞くと、まずはカラダを大きくしたい人やアスリートが補給すべきもの、と思われがちですが、健康な体の維持には、とても大切な栄養素になるんですね。
必須アミノ酸はもちろんのこと、他のアミノ酸も不足しないよう意識して、積極的にとっていきたいものです!
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(By ゼウス23世)